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第5章 自然法爾・全託・無為 2 何も想わなくて動く(想念停止) 肥田春充の悟り 世の中には、独自の方法で「悟り」を得た人がいます。その一人に「肥田春充」がおり、学習研究社より、高木一行著「鉄人を創る肥田式強健術」という本が出版されています。それによると、春充は小さい頃から「茅棒」とあだ名され、体が弱く病弱者で、十八歳まで中学校へ行くこともできなかったと書かれています。その春充が意を決し、体を鍛えると共に「丹田」を鍛錬し「中心力」を会得し最強の肉体をつくり、結果として「悟り」を得た人です。呼吸法により人間の中心である「丹田」を鍛え、「正しい姿勢」をとることにより「中心力」は現れると述べています。 その悟道の状態は「私は正中心を得てから恐怖を感じることができなくなった。どんな危険に遭遇しても、かつて恐怖を感じたことがない。のみならずはっとしたとか、ああよかったなどと後で思うことさえない。風の吹くほどにも感じない」と述べています。 また、雄弁について、「正しい姿勢をもって演壇に立てば、火の如き大雄弁は自ずから中心よりほとばしる。朗々四隔に響き渡る音声自ずから腹部から湧き来たり、変化自在天馬空を駆けるゼスチャアも自ずから腰より起こる」と、雄弁の秘訣は第一に姿勢だ!第二も姿勢だ!第三も姿勢だ!と述べています。 すべては姿勢から 「オオー完全な中心を得た瞬間のあの絶美な天地の姿はどうだ!なんというスバラシイ詩的神境だ!まったく超現実の清さ、輝かしさだ。清快壮絶―これをなんと表現するか。形容に絶している。ただ恍惚、驚嘆、讃美、忘我というよりほかはない。宇宙神秘の秘宝は、各人の正中心に潜んでいる。無限の光明である。絶対の歓喜である」春充の正中心を得た光明世界の描写です。ヨガで言うところのチャクラが開かれ宇宙の中心と結ばれた時の心境でしょう。 では、そのためには、一にも二にも三にも「姿勢だ」ということです。「正中心から重心を中央に向かって落とせば、地球の中心を貫いて無限宇宙に走り、その直線を上に伸ばせば、脳幹中枢を通過して無窮空間を貫く。こうして首は天に達し、足は地を貫く。その時、大脳の思考機能は機械的停止状態に導かれ、思考思念が許されなくなる。すなわち真の無念無想の境地が出現する。思考なき無こそ超越解脱であり、大自由境、大自在境である。」 道元は悟道の極秘として、「身を直にして前に屈まず、後ろに仰がず。左右に傾かず。耳は肩に対し、鼻は臍に対す」とただその座法だけを教えたと聞いています。 姿勢を極めること、それこそが悟道の秘伝だったのです。 五井先生の想念停止の修行とは 春充は、形を追求することによって、機械的に想念が停止する一点を見出し、想念停止による大自在境を得ました。私は若い頃、春充が言うところの正中心を極めようと丹田強化を行いましたが長続きせず、たやすくできるものではありませんでした。 五井先生は、お役目上、強制的に守護神より「想念停止」をさせられて悟道に至ったとおっしゃっていました。その五井先生が経験した想念停止の修行は壮絶で、後から来る者には、そんなことはさせられないと、それに替わる方法として「祈りの道」が示されたということになります。 想念を停止することが悟りの道だと理解しても、人間はいつも何かを想っており、自らの意志でそれを行うことは不可能です。実際にやってみればできないことがわかります。 しかし、五井先生が行われた想念停止の修行中、「神様ありがとうございます」だけは想うことを許されたとおっしゃっていました。そのことは、まさに、凡夫にとってありがたい言葉であり、秘伝と言っていいことだと思います。 姿勢を極めようとしなくても、想念を無理に止めようとしなくても、「神様ありがとうございます」だけを想い続ければよいということです。それが五井先生の教え、祈りの道です。
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